2006年02月14日

空海入門(竹内信夫/ちくま新書)

お遍路さんにとっていちばんなじみのある歴史的人物といえば、「お大師さん」こと弘法大師空海だ。遍路に出る人が、必ずしも空海に深い関心を寄せているわけではないけれど、四国を回っているうちに、少しは興味が出てきたりする。

最初は司馬遼太郎の『空海の風景』を手に取ったりするかもしれない。『空海の風景』は、司馬遼太郎が、自分の小説のなかで最も気に入っているもののひとつであるらしく、スケールの大きな人間像が描かれている。

だが、司馬遼太郎の他の小説の多くに登場する人物は、政治的・社会的人間たちだ。彼の空海像も、そういった面に大きくシフトしており、欠落している部分が多くあるように見える。それを補うという意味でも、竹内信夫氏の『空海入門』はオススメだ。

この本では空海の求道的な面がよく描かれている。しっかりとした学術的な基盤を持ちながらも、著者の体験や感動の想いを交えて語られる言葉は、「ですます調」であることも手伝って、やわらかく読みやすい。

また、新書のシリーズの一冊でありながら、あたりさわりのない概説に留まらず、著者の新しい知見も明確に述べられている。一例をあげよう。

空海自身の著作である『聾瞽指帰(ろうこしいき)』は延暦16年(797)、空海24歳の時に書かれたもので、『三教指帰(さんごうしいき)』はその「序」が書き改められたものだ。

著者によれば、『三教指帰』の「序」は、加地伸行氏も指摘するとおり、空海が唐から帰国したあとに書かれたものと考えられる。そして、そこに記されている求聞持法(ぐもんじほう)の修行と成就の記述は、延暦16年から23年の入唐までの間、空海が24歳から31歳までの間の出来事であるとする。

そうだとしたら、空海の「空白の7年間」と呼ばれている時代の活動が、おぼろげながら明らかになってくる。

また、四国遍路のガイドブックなどで24番最御崎寺(ほつみさきじ)や室戸岬について触れられるとき、「空海が19歳のときここで悟りをえた(求聞持法を成就した)」という解説がなされているが、これはちょっとあやしくなってくる。

もともとフランス近代詩や比較文化論を講じていた教授が、個人的共感から始めたという研究なので、変なしがらみのない明解さが感じられる空海論となっている。

book data:空海入門ーー弘仁のモダニスト/竹内信夫/筑摩書房 ちくま新書/1997年
posted by namo at 21:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/13288176
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。