2006年10月26日

四国遍路の民衆史(山本和加子/新人物往来社)

この本は、真念や寂本による江戸時代の四国遍路ガイドブック制作についても詳細に書かれており、よくまとめられているが、いちばん印象に残っているのは「接待講」についての記述だ。

接待講は経済的な余裕のある人たちが行なっていたのだと思っていたが、その多くは貧しい村々で組織されていたようだ。

和歌山県の高野山麓の村々は、領主である高野山に対して何度も一揆を起こすほど、年貢の増税に苦しめられていた。有名な「紀州接待講」はそのような状況のなかで始められ、毎年欠かさず四国でのお接待が行なわれていたという。

著者の言葉はなかなか痛烈だ。

「(高野山領の農民たちは)絢爛豪華な金堂で錦織の法衣をまとった高僧のなかに、弘法大師の存在を認めていなかった。(中略)それよりも彼ら領民たちは、潮たれて山風に打たれて歩きつづける遍路の姿に、弘法大師を見、接待するわが心の中に、弘法大師の心を感じとっていたのである」

実際、現代の四国遍路のお接待に接するとき、それが誰かに教えこまれた信仰から出たものというより、個人のやさしい思いから生まれる自発的な行為として感じられることが多い。

お接待は、いわゆる「チャリティー」のようなものとは、異質なものなのだ。

ところで、本書のなかでハンセン病に関してふれられている部分は、古い知識に基づいたもので、問題がある。本書の発行は奥付を見ると1995年の12月。翌年の1996年4月には「らい予防法」が廃止されており、それ以前にハンセン病の隔離政策の問題点はよく報道されていたはずだ。発売されてすぐに読んだのだが、当時疑問を感じたのを憶えている。

book data:四国遍路の民衆史/山本和加子/新人物往来社/1995年
posted by namo at 00:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月02日

四国遍路の寺(五来重/角川書店)

本書はカルチャーセンターでの24回の講話をまとめたもので、上下巻の2巻からなる。

四国遍路に関する総論的な講話もあるが、具体的に個々の札所についてもふれられている。奥の院や番外霊場についても言及されている反面、講話をまとめたものということもあって、一部の札所についての話がヌケているのがちょっと残念だ。

だが、そうした部分を差し引いても、「歩く宗教民俗学者」と呼ばれる著者が自らの足で検証したオリジナルな見解が光る本書は、四国遍路に関する最高の解説書のひとつと言っていいだろう。

「海の修験」「辺路(へじ)」「行道(ぎょうどう)」といったキーワードとともにあぶりだされる四国遍路の本質も興味深いが、それ以外にも注目すべき指摘が数々みられる。

一例をあげよう。75番札所の善通寺という名称は空海の父親の名前に由来するとガイドブックなどには書かれているが、これは『南海流浪記』に「善通之寺ハ大師御先祖ノ俗名ヲ即寺号ト為ス』とあり、大師の父ではなく古代寺院を勧進で再興した先祖の聖の名前だと考えられるということだ。

ワンパターンの札所解説本を何冊読んでも、こうした情報にはなかなか出合えない。遍路について深く知りたいと思う人には、最良の入門書になる。

book data:四国遍路の寺(上・下)/五来重/角川書店/1996年
posted by namo at 21:50| Comment(0) | TrackBack(2) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月15日

私のお遍路日記(佐藤光代/西日本出版社)

関西で活動しているフリーのテレビディレクターの、歩き遍路体験記。

「お遍路1日め」から「お遍路46日め」まで、お礼参りも含めて1日ごとの出来事がつづられている。

その日に歩いた歩数、距離、泊まった宿、出費などが表にまとめられており、同じくらいの体力で、これから歩き遍路に出ようと考えている人には参考になるかもしれない。

他の遍路体験記に見られないこの本のいちばんの特徴は、楽しいイラストがついていることだ。

1日の行程の簡単な手書き地図に添えられたイラストがあることで、雰囲気がやわらかくなり、とても読みやすくなっている。

「持っていくもの」「初日に買うもの」「参拝の仕方」「基本の服装」「宿に泊まる」「お接待」「山での歩き方」「おへんろって何?」「道しるべ」「おみやげベスト6」といった項目のイラストページも途中にはさまれていて、いいアクセントになっている。

ただ、「山での歩き方」のような、ちょっと?なものもあるが。

著者のお礼参りは、自分のお礼したい寺へ行こうと決めていたということで、37番の岩本寺を訪れている。

遍路データ:30代女性/歩き遍路(通し打ち)/2004年4月1日〜5月13日(88番まで)/43日間

book data:私のお遍路日記ーー歩いて回る四国88カ所/佐藤光代(著者)・浦谷さおり(絵)/西日本出版社/2005年

私のお遍路日記20cm.jpg
posted by namo at 20:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月26日

Route 88(小林キユウ/河出書房新社)

「遍路の本はすでにさまざまな種類が出ているが、僕の知るかぎりではインタビューで構成した本はこれが初めてだと思う」とエピローグで著者が述べるように、本書はユニークな遍路本だ。

基本的には、見開き2ページのカラー写真に、文字だけのインタビューページが2ページつづく構成になっている。

1人(1組)のお遍路さんに4ページが当てられており、31の写真とインタビューが掲載されている。

母子で登場するお遍路さんが1組いるので、登場するお遍路さんは32人になる。

その多くは20代の若者だ。これは、インタビューの対象として、著者が声をかけやすかったからだ。

歩き遍路、自転車遍路、バイク遍路、通し打ちに区切り打ちと、登場するお遍路さんのスタイルはさまざま。

インタビューも興味深いが、それよりまず目をひくのは写真ページだ。

その多くは、人物のアップの入った写真と、同じ場所でやや角度を変えた風景だけの写真を、1ページずつ左右に並べるスタイルになっており、見開きでひと連なりのように見えて、おもしろい効果をだしている。

著者はカメラマンで、小林紀晴とはふたごの兄弟らしい。

同じ著者による『路地裏温泉に行こう!』(河出書房新社/2005年)もユニークな本だ。温泉の世界で、讃岐うどんの製麺所タイプのお店を探すような本と言えばわかるだろうか。

book data:Route 88ーー四国遍路青春巡礼/小林キユウ/河出書房新社/2003年

Route88 20cm.jpg
posted by namo at 21:40| Comment(0) | TrackBack(1) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月08日

四国の雑誌GajA(ガジャ)

『四国旅マガジンGajA』は、1999年から発行されており、現在は年4回発行の季刊誌。

四国以外の土地では、大型書店などには置いてあるが、どこででも見かけるような雑誌ではない。

だが、なぜかうちの近所のそんなに大きくない本屋さんにも置いてある。

遍路の特集号は、2000年春の第3号と2000年秋の第5号。第3号では徳島から高知、第5号では愛媛から香川までが紹介されている。

遍路の紹介記事のページがそれほど多いわけではないが、横山良一さんの写真と地方誌的な大胆なレイアウトでインパクトがある。

横山さんの写真は、その後『太陽』や『旅』にも掲載され、角川書店から4冊シリーズの単行本も出たが、『GajA』で見たものが、はじめてということもあってか、いちばん印象に残っている。

遍路宿や旅館の料理が並ぶページや、人物に焦点を当てた写真なども、目先が変わっていい感じだ。

写真のなかで白ヌキになった短い言葉も、雰囲気を盛り上げている。

他の号では、讃岐うどんや温泉の特集もあり、四国が好きな人にとっては魅力的な雑誌だ。

そうそう、『GajA』はJR四国がスポンサーみたいだが、同じようにJR四国がスポンサーの『どっきん四国』という季刊誌が、ずーっと昔にあった。

富田靖子の表紙で、もっと素人くさいつくりの雑誌だったけど、それなりにおもしろかった。

あまり知っている人はいないだろうけど。

ガジャ20cm.jpg
posted by namo at 22:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月23日

親子遍路旅日記(今井美沙子/東方出版)

1981年春、夫婦と小学生の子どもの3人連れで、歩いたり乗り物を利用したりしながら、高知の31番竹林寺までまわった遍路体験記。

著者は作家で、本書は当時の毎日新聞に連載されていた記事をもとにまとめたもの。

この本のおもしろさは、著者一行の旅の体験というより、そこで出会った人に聞いた話にある。

7番十楽寺門前の茶店のおばちゃんの話は、民俗的な香りがにおい立つような不思議な話だ。

若いころ病弱で寝たり起きたりの生活をしていたとき、「ここに病人がおるな」と言って、黒い僧衣をまとい背中に「お加持、お接待」と墨書された白い布を縫いつけた男が急に入ってきた。

そして「腹ばいになりなさい」と言って、背中と腰を気合いをかけながら二、三度強く押した。

「これで身体はよくなるから、明日からここを通るお遍路さんに、『お茶、お接待。お茶あげます。まよけのお茶』と三べん言いなさい。それでお遍路さんが受け取らないときは大師が受け取るから」

僧は謎めいた言葉を残して立ち上がる。

おばちゃんは身体が楽になったことを告げ、「どこから来たお方かだけでも教えてください」と尋ねると、僧は「逆打ちじゃ!」とひとこと言って帰ってしまった。

だが、家の前の床几に坐っていた隣のおじいさんには、誰も来とらんのになんでひとりごとを言っていたのかといわれてしまう。

おばちゃんはその日から元気になり、以来三十余年、毎日お茶のお接待を続けている。

ぼくがずいぶん前に遍路をしていたときには、おばちゃん(その頃はおばあちゃん)はまだ7番の前のお店で元気にしておられた。

もうひとつ、31番竹林寺で出会った托鉢の老遍路との対話は、もっと現実的で、とても興味深い内容だ。

本文中には写真が多用され、臨場感は抜群。

book data:親子遍路旅日記/今井美沙子/東方出版/1981年

親子遍路旅日記20cm.jpg
posted by namo at 20:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月12日

雑誌の遍路特集号

雑誌で遍路の特集を組むのは春が多い・・・と思っていたのだが、近ごろではそうでもないようだ。

写真上段中央の『AMUSE』(毎日新聞社、1995年)と下段右の『旅』(JTB、2002年)はともに3月の発行だが、上段左の『SAVVY』(京阪神エルマガジン社、2005年)は9月号、上段右の『太陽』(平凡社、2000年)は8月号、下段左の『BE-PAL』(小学館、2003年)は1月号だ。

『AMUSE』は古い雑誌なので別だが、『旅』『太陽』『BE-PAL』はメジャーな雑誌なので、遍路に興味を持っている方は、書店などで見かけたり、あるいは購入された方もけっこうあるだろう。

ということで、ここでは『SAVVY』(サヴィ)という雑誌の四国八十八カ所特集号を紹介しよう。

この雑誌は関西圏で発行されている月刊の女性誌だ。

ふだんはカフェやスイーツなど女性誌がよく取り上げる企画で特集を組んでいるのだが、京都、奈良などのエリア特集の号もあり、以前にも四国の特集号を出していたことがある。

明石海峡大橋ができてから、関西から四国へは気軽に行けるようになった。東京中心の出版社とは企画が出てくる基盤が違うのだ。

女性誌ならではのキレイなレイアウトで見やすく(読みやすいわけではないが)、イケてる写真もけっこうある。

食事処やおみやげなどの周辺情報は、女性誌だけにそうとう充実している。

遍路に関する情報は、ありきたりの孫引きワンパターンだが、そこはもともと期待してないし・・・。

それよりも、「八十八カ所オリジナル手ぬぐいベストセレクション」などユニークな企画と構成が楽しい。

遍路雑誌20cm.jpg

posted by namo at 20:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月07日

同行二人(土佐文雄/高知新聞社)

近ごろは自費出版本が書店に流通するようになり、遍路体験記も数多く見かけるようになった。

ここでは最近の本にはあえて触れず、ほかでは紹介されていない昔の遍路記を取り上げよう。

土佐文雄の『同行二人』は初版が1972年の発行で、復刻第1刷が1976年となっており、手もとにあるのは1988年の復刻第9刷のものだ。

昔は遍路本そのものが少なかったため、何度も増刷され、多くの人に読まれた本もあったのだ。

高知生まれの作家による歩き遍路の記録なのだが、体験記的な記事以外に、ちょっとした文学の小品のような読み物的な文章もあり、想像力をかきたてる味わい深い本になっている。

なかでも「病む少女」と題された一編は、せつない。

口絵の写真に39番延光寺の赤亀や82番根香寺の牛鬼が載っているが、高橋留美子のマンガのキャラクター似の現在の像とはちがっている。

あとがきには、「若い遍路にたくさん会ったことも私には意外なことの一つであった」とあるが、30年以上も前から、遍路本には繰り返しこうした感想が述べられている。

人の先入観というものはなかなか変わらないようだ。

book data:同行二人ーー四国霊場へんろ記/土佐文雄/高知新聞社/1972年

同行二人20cm.jpg
posted by namo at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月18日

お遍路入門(加賀山耕一/ちくま新書)

「四国あるいは遍路という文字のついた本を見かけるや、無条件購入を宗としてきた私も、ここ数年は、ぱらぱらめくっては溜め息が出ることが多くなった。開いて見るまでもなく中身がわかり、開けば既刊本のどれかに似ているからである」と語る著者のこと。時には鋭い言葉も飛び出すが、歩き遍路への情熱は人一倍強いものが感じられる。

著者は23歳夏(1979年)と37歳春の二度、野宿を基本とした通しの歩き遍路に出て結願している。その体験を交えた語りは読みごたえがある。

『お遍路入門』とは題していても、札所のお寺の紹介があるわけではなく、ガイドブック的な実用情報がわかりやすく整理されているような内容でもない。

が、あたりさわりのない孫引き類書によって、遍路に関する固定観念を持たされてしまっている人には、一読、いい刺激になるかもしれない。

味のある線画のイラストも楽しい。序章の始まる前の挿絵では、へんろみち保存協力会の道標をもじって、立て札に「速読2時間 精読5日間 積読(つんどく)3年間」の文字が。

著者には本書以前に『さあ、巡礼だーー転機としての四国八十八カ所ーー』(三五館)という著作もあるが、こちらは448頁の大作だ。

book data:お遍路入門ーー人生ころもがえの旅/加賀山耕一/筑摩書房 ちくま新書/2003年
posted by namo at 21:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月14日

空海入門(竹内信夫/ちくま新書)

お遍路さんにとっていちばんなじみのある歴史的人物といえば、「お大師さん」こと弘法大師空海だ。遍路に出る人が、必ずしも空海に深い関心を寄せているわけではないけれど、四国を回っているうちに、少しは興味が出てきたりする。

最初は司馬遼太郎の『空海の風景』を手に取ったりするかもしれない。『空海の風景』は、司馬遼太郎が、自分の小説のなかで最も気に入っているもののひとつであるらしく、スケールの大きな人間像が描かれている。

だが、司馬遼太郎の他の小説の多くに登場する人物は、政治的・社会的人間たちだ。彼の空海像も、そういった面に大きくシフトしており、欠落している部分が多くあるように見える。それを補うという意味でも、竹内信夫氏の『空海入門』はオススメだ。

この本では空海の求道的な面がよく描かれている。しっかりとした学術的な基盤を持ちながらも、著者の体験や感動の想いを交えて語られる言葉は、「ですます調」であることも手伝って、やわらかく読みやすい。

また、新書のシリーズの一冊でありながら、あたりさわりのない概説に留まらず、著者の新しい知見も明確に述べられている。一例をあげよう。

空海自身の著作である『聾瞽指帰(ろうこしいき)』は延暦16年(797)、空海24歳の時に書かれたもので、『三教指帰(さんごうしいき)』はその「序」が書き改められたものだ。

著者によれば、『三教指帰』の「序」は、加地伸行氏も指摘するとおり、空海が唐から帰国したあとに書かれたものと考えられる。そして、そこに記されている求聞持法(ぐもんじほう)の修行と成就の記述は、延暦16年から23年の入唐までの間、空海が24歳から31歳までの間の出来事であるとする。

そうだとしたら、空海の「空白の7年間」と呼ばれている時代の活動が、おぼろげながら明らかになってくる。

また、四国遍路のガイドブックなどで24番最御崎寺(ほつみさきじ)や室戸岬について触れられるとき、「空海が19歳のときここで悟りをえた(求聞持法を成就した)」という解説がなされているが、これはちょっとあやしくなってくる。

もともとフランス近代詩や比較文化論を講じていた教授が、個人的共感から始めたという研究なので、変なしがらみのない明解さが感じられる空海論となっている。

book data:空海入門ーー弘仁のモダニスト/竹内信夫/筑摩書房 ちくま新書/1997年
posted by namo at 21:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月11日

遍路圖會(荒井とみ三/新正堂)

京都の下鴨神社か知恩寺の古本市で見つけたもので、昭和17年発行。当時の定価は1円80銭。

『へんろ功徳記と巡拝習俗』(浅井證善/朱鷺書房)にこの本の引用があり、昭和15年、讃岐風俗研究所発行となっているので、地方の出版物を大阪の出版社が再度刊行したものだろう。前書きは「昭和17年麦秋」となっている。

昭和17年というと、戦争中だ。テレビドラマなどのイメージで、英語など敵国語を使うことは厳しく禁じられていたというイメージがあったのだが、本書の発行されたころはまだそういった規制は及んでいなかったのか。「デパートのショウウインドなどに映つた遍路姿」といった記述が頻繁に出てくる。

四国に生まれ育った著者の文章ものんびりとした調子で、とても戦時中に発行された本とは思えない。

内容は、自筆の挿絵が趣きある「遍路の風俗」、お寺の縁起や伝説が記された「霊場八十八ヶ所めぐり」、遍路の起源や服装などについて書かれた「遍路の研究」の3章からなる。

興味深いのは、当時にしてすでに、「(四国には)平安の頃から遍土と称して既にそれらの霊場を巡拝する風習があつた。(中略)故に遍路の起源は、必ずしも今日言ふ弘法大師の霊場を巡る意ではなかつたらしいのである」という言葉や、「昔は海辺又は峻坂嶮路の土地に霊場が設けられ、それを巡歴することを正当とされていたらしい」という記述が見られることだ。

五来重氏などの研究により、遍路の起源が海洋宗教である「辺路(へじ)修行」に由来することが広く知られるようになったが、1940年くらいにこのような内容が一般向けの本に記されていたとは意外だった。

book data:遍路圖會(遍路図会)/荒井とみ三/新正堂/1942年

遍路図会.jpg
posted by namo at 21:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月07日

なにも願わない手を合わせる(藤原新也/東京書籍)

藤原新也さんの写真をはじめて見たのは、たぶんなにかの雑誌だったと思う。なかでも人の死体が風景の一部になっているような写真と、「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」というフレーズが印象に残った。これらの写真はのちに『メメント・モリ』(情報センター出版局)という本にまとめられている。

2003年に刊行された『なにも願わない手を合わせる』という本は、型にはまった巡礼の本というわけではないし、全編が四国を舞台にしたものではないのだが、遍路という行為のある一面の、本質的ななにかが匂いたってくるような本だ。

これまでも肉親が他界するたびに四国巡りをしてきた著者は、兄の死に際してふたたび四国の地を踏む。それは自分自身の心の中に残っている死者への想いを浄化する行為だという。

「私の四国巡りというのは八十八カ所という決められたルートを形に沿って回るというものではない。私はそういう定型化された旅は苦手なのである。それはあくまで四国という風土そのものを巡るものであり、道すがら気が向けば寺を訪れるというような旅である」

そのような旅で見いだされた祈りのかたち。それは、その人自身のものであるという意味で、ホンモノの祈りと言えるかもしれない。

数十ページ読み進むごとに現れる写真ページは、ざらついた本文紙と同じ紙に刷られており、写真の質感にマッチしている。

瀬戸内の島で蝶の死の瞬間に立ち会う話には、生の(死の)不思議を感じざるをえない。群れ飛ぶアゲハ蝶のなかの一頭の老蝶が群から離れ、上空に高く舞いのぼり、命の糸が切れたように羽ばたくのをやめ落ちていった。その先を追って著者が見たものは・・・。一読してたしかめていただくしかない。

※メメント・モリとは死を想えという意味。リンク先のMement moriの項目にある写真は、人によっては衝撃を受けるかもしれないので、心の準備を。

book data:なにも願わない手を合わせる/藤原新也/東京書籍/2003年
posted by namo at 22:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月04日

心の旅(兼松浩一/自費出版)

留学やボランティア活動など、長く海外で暮らしていた著者が遍路に出たのは、母の死がきっかけだった。

京都の東寺が主催する四国八十八カ所巡礼ツアーに2回も参加し、その体験を手紙に書き送ってくれていた母との突然の別れ。

著者は1997年の春、母が参加を予定していた四国別格二十カ寺のツアーに参加。同じ年の夏には、一人で歩き遍路の旅に出る。そうして1999年には、野宿を中心にした逆打ちの歩き遍路を行なっている。

この本では、1回目の歩き遍路については短くまとめられ、おもに2回目の遍路体験について書かれている。

自費出版ということもあり、日記そのままの体裁や、情熱を直接たたきつけたような文章もあるのだが、かえってそれが臨場感をだしている。

偶然とは思えない不思議な再会や、心あたたまるお接待の話が印象的だ。

改造車に乗った茶髪の若い男が照れながらコンビニ袋をさしだすので受け取ると、なかにはおにぎりとお茶のペットボトルが入っていたり、赤い自転車に乗った小さな女の子が「これ欲しい?」とチューチューのアイスクリームを分けてくれたり・・・。

遍路での体験を現実の社会に生かそうとする姿勢もさわやかだ。

※本書は京都の東寺の食堂(じきどう)で購入。堂内には金剛杖や白衣など遍路用品も売られている。

遍路データ:20代男性/1回目:歩き遍路/通し打ち(順打ち)/1997年8月15日〜(32日間)/2回目:歩き遍路/通し打ち(逆打ち)/1999年3月9日〜4月13日(36日間)

book data:心の旅/兼松浩一/自費出版 
posted by namo at 22:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月30日

おへんろ出会い旅(おかざききょうこ/コアラブックス)

札所の近くには四国の名所も多いし、スタンプラリーのような興味本位で旅に出たという著者は、2カ月で四国を歩いてまわることにし、綿密な計画を立てる。

だが出発前夜、荷物を背負ってみて「無理だ!」と実感し、公共の乗り物も利用することにする。

飛行機の機内では週刊ビッグコミックスピリッツを読みながら四国へ向かい、山のなかの遍路道はこわがるといった、典型的なマンガ世代?都会育ち?の女性。

札所をまわる順番はバラバラだったり、余分な荷物を宿に置いてまわったりするのでもとの場所に引き返さなければならなかったりと、けっこうたいへんそうだが、いろんな人と出会ったり、お接待の車に乗せてもらったりして、それでもなんとか無事に結願する。

82番根香寺の牛鬼の像を、「高橋留美子のマンガに出てくるキャラクターみたい」というのには思わず納得。

遍路データ:30代女性/乗り物も利用する歩き遍路(通し打ち)/1996年9月23日〜10月18日(26日間)

book data:おへんろ出会い旅ーー四国路1,400キロ/おかざききょうこ/コアラブックス/1997年
posted by namo at 21:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月29日

情け嬉しやお遍路ワールド(佐藤孝子/近代文芸社)

社会に過剰適応気味の男性とはちがって、しっかりと自分の感受性を大切にしている著者は、自分がすり減ってゆくような感覚に耐えかね、先の見えないまま小学校の教師を辞めて歩き遍路の旅に出た。

19番立江寺の「肉付き鉦の緒」の縁起話など、女性の視点から紹介していておもしろい。同じ縁起話を何も考えずに説教に使い続けるような、頭の硬い坊さんに読ませてやりたいものだ(まあそういう人は、読んでも変わらないだろうけど)。空海や仏教に対する理解もある。

同じ著者による、2回目の区切り打ちの遍路体験をベースにした『お遍路に咲く花通る風』(リヨン社/1997年)のほうは、記録的な色合いが薄くエッセイ集のような感じ。旅の参考にしたいのなら、1番札所から順番に進行してゆく本書のほうがヒントになるが、読みものとしてならこちらのほうが読みやすいかもしれない。

遍路データ:40代女性/歩き遍路(通し打ち)/1995年4月12日〜5月23日(42日間)

book data:情け嬉しやお遍路ワールドーー歩いて歩いて四国の風になった/佐藤孝子/近代文芸社/1996年
posted by namo at 22:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月28日

定年からは同行二人(小林淳宏/PHP研究所)

「平均的日本人であり、仏教知識がそんなにあるわけではないし、信仰心が厚いわけでもない」と語る著者は、完全徒歩、遍路中の禁酒、禁煙を目標に1番札所から歩きはじめる。

歩き遍路という冒険に現実的に対応し取り組んでゆくビジネスマンといったおもむきだが、ジャーナリスト出身なのでちょっと軽めで調子がいい。

それでも旅の終わりは感動的だった。

定年後囲碁に熱中し、その記録を『定年からが面白い』という本にして出していた著者のこと、最初から遍路体験記を書こうと計画し、毎日記録をつけていたのだろう。その記述はえらく克明だ。

へんろみち保存協力会の『四国遍路ひとり歩き同行二人』が出版される以前の旅なので、今の歩き遍路以上に宿などにも苦労している。

この本が出版されてから、定年前後の男性のお遍路さんが増えたそうだ。実際によく見かけるようになった。

遍路データ:60代男性/歩き遍路(通し打ち)/1988年7月11日〜8月20日(40日間)

book data:定年からは同行二人ーー四国歩き遍路に何を見た/小林淳宏/PHP研究所/1990年
posted by namo at 22:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

遍路本

別のブログで取り上げていた遍路本の紹介文をこちらに再録します。

今では遍路に関する情報も、ホームページやブログから容易に得られるようになり、ガイドブックも目白押しですが、10年くらい前には遍路体験記も貴重な情報源でした。

そんな事情もあってか、ひと昔前の遍路体験記は今読んでもおもしろく、味のあるものが多いようです。

そんな時代の3冊の体験記を紹介します。古本屋などで探してみてください。まずは1冊目。
posted by namo at 22:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月10日

歩き遍路の定番ガイドブック 『四国遍路ひとり歩き同行二人』

近ごろの歩き遍路はガイドブックに恵まれている。それは、へんろみち保存協力会の『四国遍路ひとり歩き同行二人』があるからだ。

本書は2冊に分かれている。1冊は遍路出発前の準備に役立つもので、季節ごとの注意から予算、プランの立て方、必要な携行品など、これだけで一通りのことがわかるようになっている。

別冊の「地図編」は、地図上に遍路道はもちろん、食堂・喫茶、宿泊施設、トイレ、休憩所、距離、標高などが記され、巻末には宿泊施設の連絡先リストがついている。

1番札所など現地でも買えるが、出発以前に取り寄せて準備に役立てるといい。

初版は1990年で、第5版までは国土地理院の地形図をベースにした3色刷りの地図だったが、第6版で大幅に改訂されカラーの地図になった。

ただ、カラー版は東西南北がバラバラで、ちょっと使いにくくなってしまった。あるだけでありがたい地図なので、ぜいたくは言えないが。

現在では、2冊セットでなくても購入できるので、古い版を持っている人は、「地図編」だけ買い足せばいい。「地図編」2500円、「解説編」1000円となっている。

詳細はこちらへ。
posted by namo at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 遍路本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。